👁️ コンタクトレンズ
佐藤直樹(さとう・なおき)は、仕事に追われる毎日を送るひどい近眼の男だった。忙しさのせいで眼科に行く時間もなく、古いコンタクトレンズを使い続けていた。
そんな彼が転勤で福岡へ引っ越すことになった。新しい環境は心地よく、美味しい食べ物や活気ある街並みに癒される日々。やがて彼は、買い替えが必要になったコンタクトレンズのために近くの眼科を探した。
🌫️ 不思議な眼科との出会い

霧が立ち込める森の道を抜け、ショッピングモールへ向かう途中、新しく開業したばかりの眼科を見つけた。外観は妙に新しく、しかしどこか無機質な印象があった。
「ここにしよう」
診察室に入り、医師に相談した。
「最近、コンタクトが曇りやすいんです。もっとクリアに見えるものはありますか?」
医師は静かに頷き、新しいコンタクトレンズを差し出した。隣の看護師が微笑む。
「これを使えば、何でもよく見えますよ」
妙な自信を感じさせる口調だった。
🔍 異常にクリアな視界

装着した瞬間、眩しさに思わず目を細めた。世界が異様なまでに鮮明だった。輪郭がシャープすぎて、まるで映像を過度に補正したような違和感がある。
佐藤はふと、視界のすべてが異様に鮮明すぎることに気づいた。遠くの建物の壁の細かい亀裂までもが見えた。
しかし――
なぜか人々の顔だけが、どれも同じように滑らかだった。
❤️ 幸せな結婚、しかし……
それでも、見える世界の美しさに気を取られ、違和感は次第に薄れていった。
新しい生活が始まった。街の近代的な建物、美味しい食べ物、愛想のいい人たち。その中で、彼は美しい女性と出会い、恋に落ちた。
しかし、時折ふとした違和感を覚えることがあった。
「あれ? ここ、コンビニじゃなかったか?」
「いや、花屋だったよ。ずっとね」
街の人々の顔が、どこか均一すぎることに気づいた。肌には傷ひとつなく、左右対称すぎる整った顔立ち。だが、それも気のせいだろうと思い込んだ。
やがて彼は恋人と結婚し、幸せな日々を送る。
👁️ 恐るべき真実

ある朝、気まぐれにコンタクトレンズを外してみた。裸眼の視界はぼやけていたが、それでも異変に気づいた。
ベッドの隣で眠る女性の顔が、見知らぬものだった。
心臓が跳ね上がる。
眼鏡をかけて、もう一度確認する。
やはり見知らぬ女がそこにいた。
だが、その女は昨晩と同じバラの柄のパジャマを着ている。
「……どうしたの?」
妻の寝ぼけた声。
佐藤は必死に平静を装う。
「いや……ちょっと目の調子が悪くて」
妻はくすっと笑った。
「やだなぁ、前にも言ってたでしょ? コンタクトレンズ、すごい性能なんでしょ?」
その言葉に、彼は凍りついた。
──「なんでもよく見えますよ」
あの時、看護師が微笑みながら言った言葉の意味を、今になってようやく理解した。
震える手で、もう一度コンタクトレンズを装着する。
視界が戻る。そこには、いつもの妻がいた。
🔚 そして、最後の違和感
「……おかえり」
妻はゆっくり瞬きをした。
その目は、妙に澄んでいた。
いつもの妻だった。
── たぶん。
