にいなのログ
2014年の春、世田谷の校庭の片隅に、かつての小学生4人が集まった。今日は、卒業のときに埋めたタイムカプセルを開ける日だ。
「うわ、マジでここだよ。あの木、まだあるんだな〜」
お調子者のヒロがスコップ片手にテンション高め。
「ちょっと静かにしてよ…」と眉をひそめるサヤは、昔から本好きで冷静。
「楽しみだなあ…俺、何入れたか覚えてないけど」と笑うマコトは、のんびり屋。
そして翔太は、無言で地面を見つめていた。
やがて、小さなブリキ缶が顔を出す。その中には、色あせた手紙、写真、そして——
「これ…たまごっち…」
ピンク色の古びたたまごっちが、沈黙の中でひっそりと現れた。
「これ、もしかして…にいなちゃんの?」
翔太がそっとつぶやく。
——にいなちゃん。あの冬以来、彼女はこの場にいない。それ以来、何かが止まったままだった。
「動くかな…」
マコトがそっと電池を入れる。

“ピピッ”
画面が光った。見慣れたキャラが現れる。けれど、その顔は…ほんの少し、にいなちゃんに似ていた。
「こんにちは、しょうた。——これを、いつか見てくれるといいなって思って、話しかけてるよ。」
言葉が、ゆっくりと流れる。にいっちが喋っているようにも、にいなちゃんが日記を読んでいるようにも聞こえる。
「わたしのたまごっち、“にいっち”はね、いっしょにお話したこと、ぜんぶ覚えてるよ。パパの声、ママのにおい、リビングの光。さむい夜、おふとんの中で話した“ずっと友だちだよ”って言葉も。」
サヤが、ふと息を呑んだ。にいっちの顔が一瞬だけ、笑ったように見えたのだ。
「ねえ、しょうた。わたし、ちゃんと“ありがとう”って言いたかったの。」
その瞬間、画面がふっと暗くなる——が、再び点灯した。
そこに映し出されたのは、「2000/12/30」のタイムスタンプ。画面の奥から、かすかな“笑い声”が、再生された。
ヒロが小さく呟く。
「……ログ、なんだな。これはきっと」
翔太は、たまごっちを両手で包むように持った。10年前と同じ重さ。けれど、もう何も怖くなかった。
「……ほんとに、にいなだったのかもな」
静かに目を閉じて、彼はそっと電源を切った。
たまごっちは、静かに「さようなら」とだけ言った——気がした。

コメント