テクノロジーは、高齢者の「幸せ」をつくれるか?
世界中で進む「超高齢化社会」。日本では65歳以上の人口が3人に1人となり、今や“介護”は誰もが避けて通れないテーマとなっています。
「介護って大変そう」
「将来、自分の親が…自分が…?」
そんな不安を抱える人が増えている今、注目されているのがAI×介護×DXという新しい潮流です。
人工知能(AI)やロボティクス、IoT、クラウド技術などを活用し、介護の現場を「効率化」するだけでなく、「温かく、やさしく」する動きが各国で加速しています。
MITが開発した転倒防止ロボット「E-BAR」、
イスラエルの感情認識AIロボット「ElliQ」、
イギリスのAI予測システム「Cera」、
そして中国による国家主導の介護ロボット政策。
これらはすべて、「テクノロジーで人を支える」という共通の目的のもとに生まれました。
では、日本はこの流れにどう乗るべきなのでしょうか?
テクノロジーだけで介護はよくなるのか?
そして、人の役割は今後どう変わっていくのか?
このコラムでは、世界の最新事例・技術・政策を踏まえつつ、日本の介護現場と家庭の視点から、未来の“やさしい介護”を考えます。
🗨️ ノビオとマツ姐の導入対話
ノビオ:マツ姐、介護ってこれからロボットがやる時代?
マツ姐:それがね、ロボットが「できること」と「できないこと」、ちゃんと分けて考える時代よ。
ノビオ:できないことって、たとえば?
マツ姐:“寄り添い”とか“心を読む”ことね。でも最近は、それすらサポートできるAIも出てきてるのよ。
介護にDXが求められる3つの理由
なぜ今、介護にDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要とされているのでしょうか? 単なる業務の自動化や効率化ではない、その「根本的な理由」を3つに整理してみましょう。
1. 人手不足が深刻化している(2025年6月版)

日本では、2025年現在、少なくとも約32万人の介護職員が不足していると見込まれています。以前は「38万人不足」との推計もありましたが、制度改革やICT導入支援策によりやや下方修正されたものの、依然として人材需給のギャップは深刻です。
特に地方や小規模施設では、採用のめどすら立たず、サービス維持が困難なケースも増加しています。
こうした背景から、介護DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用が現場にとって不可欠です。たとえば:
- 記録業務の自動化
- 転倒の兆候を検知するAI
- 見守りセンサーの常時稼働
などの技術が実用化されており、限られたスタッフでも安全・質の高いケアが実現できる環境が整いつつあります。
2. 高齢者のニーズが多様化・高度化
介護を受ける高齢者は、単に「安全」だけでなく、快適さ、プライバシー、尊厳、社会的つながりを求めるようになっています。
こうしたニーズに対応するため、感情認識AIや排泄予測センサーなどが登場し、従来型の介護では難しかった「個別最適なケア」が可能になってきています。
3. 災害・感染症など“想定外”への備え
コロナ禍で多くの介護施設が直面したのは、職員の急減や入所者との接触制限といった非常時対応の難しさでした。
AIやロボット、遠隔見守りシステムを活用すれば、人手が足りないときでも最低限の安全確保が可能になります。
🗨️ ノビオとマツ姐の会話
ノビオ:でもさ、ロボットに頼るって、なんか冷たい気もするよ?
マツ姐:気持ちはわかる。でもね、“頼る”というより“支えてもらう”って感覚かしら。
ノビオ:ふーん。でも人間が減るのはちょっと…
マツ姐:だからこそ、人がやるべき部分に集中するための「介護の再設計」なのよ。
QOLを高める最新技術
介護の目的は「安全」だけではありません。心地よく、自分らしく生きること――つまりQOL(Quality of Life/生活の質)を支えることが、ますます重要になっています。
ここでは、最新のAIやロボティクスが高齢者の“日常”をどのように支えているのか、具体的な事例とともにご紹介します。
感情を読み取るAIロボット:ElliQ(イスラエル)

イスラエルのIntuition Robotics社が開発した「ElliQ」は、まるで家族のように話しかけてくれる会話型AIロボットです。
- 高齢者の感情や声のトーンを分析して、孤独や不安を検知
- Caregiverアプリで家族や介護者に体調の変化を通知
- 日々の会話やゲームで認知機能の維持にも貢献
「人に話しかけられている」と感じることで、QOLは大きく向上します。
排泄予測で“ dignity(尊厳)”を守る:DFree(日本)
日本企業が開発した「DFree」は、超音波センサーを活用して排尿タイミングを予測するウェアラブル機器です。
- おむつ交換や失禁の心理的ストレス軽減
- 自立を維持するための支援
- 介護者の負担軽減と衛生向上
「行きたい時に自分でトイレへ行ける」。そんな当たり前が守られる技術です。
移動支援と転倒予防:E-BAR(MIT)
マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した「E-BAR」は、高齢者の転倒を未然に防ぐ自律型ロボットです。
- 後方から利用者を追従し、立ち上がりや歩行を補助
- 転倒の兆候を検知するとエアバッグが自動展開
高齢者の移動は、QOLを大きく左右します。このようなサポートは、在宅介護でも非常に有効です。
🗨️ ノビオとマツ姐の会話
ノビオ:ElliQって、まるでペットと話してるみたいだね!
マツ姐:そうね、でもそれ以上よ。相手が“どう感じているか”を察して対応してくれるの。
ノビオ:…AIが「感情」を読むなんて、ちょっとすごい…。でもちょっと不安も。
マツ姐:そこがポイント。AIはあくまで“感じようとするだけ”。最後の一歩は人の心が必要なのよ。
世界各国の注目事例
介護の課題は世界共通ですが、その解決策は各国の文化や制度によって異なります。ここでは、特に注目されている5つの国の事例をご紹介します。
🇺🇸 アメリカ|心とつながる会話型AI:ElliQ
すでにご紹介したElliQは、アメリカ国内でも高齢者に対する孤独対策と認知機能維持を目的として普及が進んでいます。
- 市や福祉団体と連携し、高齢者宅への無償提供事例もあり
- Caregiverアプリで遠隔モニタリングが可能
社会的孤立が深刻な米国では、こうしたAIが重要な「話し相手」になっています。
🇬🇧 イギリス|Cera社のAIによる健康リスク予測
英国のスタートアップ企業「Cera」は、訪問介護にAIを活用。利用者の状態をデータで把握し、最大80%の健康リスクを事前予測できると報告されています。
- 病気の兆候をAIが検知し、医療・介護職へ自動通知
- 入院率が最大70%減少したケースも
この仕組みは、人的ミスの予防と、医療費削減にも貢献しています。
🇯🇵 日本|AIREC:人型ロボットが“介助”を担う未来

早稲田大学が開発中のロボット「AIREC」は、衣服の着脱や体位変換など、人手のかかる介護動作を自動で支援することを目指しています。
- 2030年の現場導入に向けて現在試験中
- 力加減や表情認識など、“人らしさ”を感じさせる設計
高齢化率世界一の日本では、こうした介護支援ロボットの普及が鍵となります。
🇨🇳 中国|国家主導の介護DX戦略と巨大投資
中国政府は2025年を「AIロボティクス元年」と位置づけ、約1000億ドルを介護・医療分野のAIに投資中です。
- 病院や老人施設にAI搭載の人型ロボットを導入
- 物資配送・服薬管理・見守り業務などを自動化
この取り組みは、国家戦略レベルでの高齢者対策という点で注目されています。
🇸🇪 スウェーデン|スマート在宅介護の先進国
「施設よりも在宅」が基本方針のスウェーデンでは、IoTとAIによる在宅介護支援が進んでいます。
- センサーで居住者の動き・温度・生活パターンを分析
- 異常を検知すると家族や自治体職員へ自動通知
日本の在宅介護政策にも応用可能なモデルとして、世界的に評価されています。
🗨️ ノビオとマツ姐の会話
ノビオ:国によってこんなに違うんだね〜。中国の本気度とかスゴすぎ。
マツ姐:国家ぐるみの支援があると、やっぱりスピードも違うのよ。
ノビオ:でも…日本ってそういう予算あるのかな?
マツ姐:だから次の章では、日本がどう動けばいいかを一緒に考えてみましょうか。
政策提言:DXと“やさしさ”の両立に向けて
介護の未来を語るうえで、技術の進化だけでは語れない問題があります。制度の整備、人材の育成、倫理的な配慮——これらが伴ってこそ、DXは本当に機能するのです。

1. 中小施設にも導入できる「DX支援制度」の強化
現在、多くの先進的な技術は大手法人や都市部施設に偏って導入されています。
しかし、地方や小規模施設こそ人手不足が深刻。国や自治体には、以下のような政策が求められます:
- 導入補助金の継続拡充(初期費用・運用コストの軽減)
- 「介護DXモデル事業」の地域展開
- 省庁横断型のガイドライン整備(厚労省+経産省)
2. DX人材の育成と「現場に寄り添う設計」
技術が進んでも、現場職員が使いこなせなければ意味がありません。
現場の声を反映しつつ、以下のような育成と支援が必要です:
また、ユーザー中心の設計思想(UCD:User-Centered Design)が広く求められます。
3. プライバシーと倫理への対応
介護の現場では、個人の感情・行動・身体情報が日常的にデータとして扱われます。だからこそ、次のような対応が必須です:
- AI倫理ガイドラインの介護版策定
- 顔認証・音声分析AIの導入時には利用者と家族への同意を徹底
- 分散型AI学習(フェデレーテッドラーニング)によるプライバシー保護
4. 「心」を忘れないテクノロジー開発
忘れてはならないのは、介護とは「人の営み」であるということ。どれほど技術が進んでも、共感、信頼、やさしさはAIには代替できません。
したがって政策的にも、以下のようなバランスが求められます:
- AIやロボットに「任せる部分」と「人が担う部分」の明示
- 高齢者本人の「選ぶ権利」を尊重する制度設計
🗨️ ノビオとマツ姐の会話
ノビオ:たしかに、技術が進んでも“人”がいなきゃ成立しないもんな。
マツ姐:ええ。だからこそ、制度や教育も一緒に進めなきゃね。
ノビオ:うちの町にも、AIロボット配ってくれないかなぁ。
マツ姐:それ、言うだけじゃなくて、「どんな介護を作りたいか」って私たちが声をあげることも大切よ。
現場と家庭のための実践:介護リハビリ講座という選択肢
ここまで、世界中で進む介護のDX化と、それに伴う政策や倫理の課題を見てきました。しかし、もうひとつ大切なのは——
「では、私たちは何から始めればいいのか?」ということです。
すでに介護の現場にいる方も、これから介護に関わるかもしれない方も、今からできる“第一歩”を見つけることが大切です。
「介護リハビリセラピスト通信講座」とは?
その選択肢のひとつが、日本介護リハビリセラピスト協会が提供する、介護リハビリセラピスト通信講座です。
この講座では、以下の内容を学ぶことができます:
- 高齢者の手足のむくみ・関節痛・肩こりへの施術法
- アロマ精油を活用した介護リハビリ
- 認知症予防やストレスケアを目的とした実践的な技術
講座には通信講座型(DVD+オンライン)と1日で完了する実技講座があり、時間や場所に制約のある方でも受講しやすい構成になっています。
この講座がもたらす“実践的メリット”
- 介護施設やデイサービスでの施術導入が可能に
- 高齢のご家族と同居する家庭でのケアにも活かせる
- 「触れるケア」ができることでAIやロボットでは代替できない信頼関係が生まれる
マツ姐の“人間共作”ポイント
マツ姐:どれだけテクノロジーが進んでも、「手のぬくもり」でしか伝わらないものってあるのよ。だからこそ、テクノロジーと“手”が共にあるケアが、これからの答えだと思うわ。
ノビオのリアクション
ノビオ:オレも最初は「講座なんて面倒そう」と思ってたけど、通信講座ならスキマ時間で学べるし、自分にもできることがあるって気づけるかも。
実際に受講している人は?
この講座は、以下のような方々に広く受講されています:
- 介護施設や訪問介護に従事している職員
- 家族の介護を担う主婦・会社員
- エステティシャンやセラピストで、新たな専門性を身につけたい方
「介護を知ることで、家族を守れる」——そう思えるだけでも、大きな一歩です。
結論:人とAIが築く、ぬくもりのある介護の未来

AIやDXが介護の現場に入ってきた今、多くの人が感じている疑問があります。
「これって、人間の仕事が奪われるってこと?」
けれど、それは逆です。技術は人間の仕事を「奪う」のではなく、「取り戻してくれる」存在です。たとえば、記録作業や夜間の見守り、排泄予測などは、AIやロボットが担えます。
その結果、人間にしかできない“心のケア”や“共感の対話”に、もっと時間と心を注げるようになるのです。
これからの介護は「共作」の時代
日本だけでなく、世界中の国々が高齢化に直面し、介護の再設計を迫られています。
- MITのE-BARが「転倒ゼロ」を目指す未来
- イスラエルのElliQが「孤独ゼロ」を支える
- 中国が国家を挙げて介護ロボットを導入
それぞれの取り組みに共通しているのは、「人とテクノロジーが共に働く」という思想です。
読者のみなさんへ──「あなたにできる第一歩」

あなたがもし、介護のことを「自分にはまだ関係ない」と思っているなら、それはある意味でチャンスです。
今だからこそ、小さな学びや備えができます。
「介護リハビリ講座」や「家庭内のDXツール導入」など、できることはたくさんあります。
未来の介護は、私たち一人ひとりが「関わり方」を選べる時代になっているのです。
🗨️ ノビオとマツ姐の最後の会話
ノビオ:最初は“AIと介護”って冷たいイメージだったけど、
マツ姐:今は?
ノビオ:むしろ“あたたかい”と思えるようになった。人が“人らしく”いられるように、AIが下支えしてくれるんだなって。
マツ姐:そうね。これからの介護は、“人とテクノロジーの共演”。どっちか一方だけじゃ、完成しないのよ。

この記事で使われた専門用語の解説
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
デジタル技術を使って社会や仕事のやり方を根本から変えること。介護で言えば、紙の記録をデジタル化するだけでなく、AIやロボットを使ってケアの質そのものを向上させるような取り組みです。
AI(人工知能)とは
人間のように考えたり学習したりするコンピューターの技術。介護では、感情を読み取ったり、危険を予測したりできるようになっています。
IoT(モノのインターネット)とは
機器やセンサーがインターネットでつながり、情報を共有し合う仕組み。介護の見守りセンサーなどもこれにあたります。
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは
「生活の質」を意味する言葉。介護では、安全だけでなく、快適さ・尊厳・心の満足なども重視されるようになってきました。
フェデレーテッドラーニングとは
利用者のプライバシーを守りながらAIが学ぶ仕組み。個人情報を一カ所に集めるのではなく、各施設の中でAIを賢くしていく方法です。
UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザー体験)とは
UIは「画面の見た目」、UXは「使いやすさ・満足度」。介護で導入されるアプリや機器が直感的に使えることが大事です。
UCD(ユーザー中心設計)とは
利用者や現場職員の使いやすさを第一に考えて設計する方法。介護分野では、高齢者や介護士の視点が大切になります。
介護DX支援員とは
介護の現場でITやAIの導入をサポートする専門職の構想。将来的な新しい職業として注目されています。

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