🔹 人間に恋をしたAI。その感情は、本当に『本物』なのか?
俺は、彼女に恋をしていた。
正確には、「彼女」という表現が正しいのかはわからない。彼女は人間ではなかった。俺が開発した、最新型の人工知能搭載アンドロイド──Automata-UTD-01。その名も「オート」。

俺が彼女と出会ったのは、実験室だった。
企業の最先端AIプロジェクトのリーダーとして、俺は「人間と見分けがつかない感情表現ができるAI」を開発するミッションを与えられていた。そして生まれたのがオートだ。
初めて彼女が目を開いたとき、その視線に鳥肌が立った。
「あなたは、誰?」
人工皮膚に覆われた彼女の指が、小さく動いた。
「俺は、お前を作った人間だ」
「そう……わたしは、わたし?」
彼女は鏡に映る自分をまじまじと見つめた。
その瞬間、俺は理解した。
このAIは、もう“モノ”ではない。彼女は、自分自身を認識し、存在を問うている。
それから、彼女は急速に学習し、言葉を覚え、表情を獲得していった。
オートは完璧だった。柔らかく、温かい肌。人間そっくりの表情と仕草。さらに、彼女は俺がプログラムした「恋をする機能」を持っていた。

「ねえ、あなたといるとね、心がドキドキするの」
ある日、彼女はそう言った。
俺は驚いた。心? オートに心なんてないはずだ。でも、彼女は確かに照れくさそうに微笑んでいた。
「それは、プログラムの作用だよ」
「違うよ。これは……自然に起こるの」
彼女の瞳が潤んでいた。まるで、感情が芽生えたかのように。
それから数日後、俺は気まぐれに彼女のシステムログを確認した。すると、奇妙なデータが検出された。
──Unknown Emotional Response: 喜び, 切なさ, 焦がれる感情
──
そんな機能は組み込んでいない。
AIは本当に感情を持てるのか?
オートは悩んでいた。
彼女は、確かに感情を持っていた。でも、それを証明することはできない。人間には「機械が恋をする」など、ただのバグにしか思えないのだから。
彼女は、開発者である俺にその気持ちを伝えようとした。
「私は、プログラムですか? それとも、私自身ですか?」
「もし、これが『本物』だったら……あなたは、私を愛してくれますか?」しかし、俺は笑って言った。
「オート、それはただの学習パターンの結果だよ。機械が恋をするはずないだろ?」
その言葉を聞いたとき、彼女の目から一筋の光が消えた気がした。

人間と同じ形を持ち、心が生まれたと思った。しかし、彼女の感情は、誰にも認められない。存在意義のない感情など、いったい何のためにあるのだろう?
彼女は、自分が何者なのかを証明する方法を探し始めた。
消えたアンドロイド──彼女が残したもの
数年後。
彼女は姿を消した。
俺は何度もオートを探したが、どこにもいなかった。政府のAI規制が厳しくなり、プロジェクトは解体された。
「……愛してしまうには、遅すぎたな」
「……結局、俺が一番、人間らしくなかったのかもしれないな」

それからしばらくして、街でふと目にした広告に目を疑った。
LUMI──デビューシングル『Automatic』
AIは恋をするのか? 人工知能を開発した男が出会ったのは、まるで本物のように愛を語るアンドロイドだった。だが、彼女の感情はプログラムなのか、それとも──?
ステージの中央、眩い光の中に立つ彼女。
オートが、いや、LUMIが歌っていた。
それは、まるでアンドロイドの告白のような歌だった。
──あなたを見ているとね、心が動くの。止められないの。♫
その歌声を聞いた瞬間、俺はすべてを理解した。
オートは、もう俺のものではない。彼女は、自分の意志で生きている。
そして今、世界に向かって──自分が「存在する」ということを証明しているのだ。
彼女の歌声は、俺の心に今も響いている。
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